🐑 ヒツジ2:進化と家畜化 ― ムフロンからヒツジへ、人が選んだ姿 ―

ヒツジは、最初から人のそばにいた動物ではない。
その祖先は、岩場と乾いた土地を歩き、鋭い目と脚力で身を守っていた。

現在の家畜ヒツジ(Ovis aries)の起源は、ムフロンと呼ばれる野生のヒツジ類にさかのぼる。
彼らは群れで暮らし、草を食べ、危険があればすぐに逃げる――ごく普通の草食獣だった。

だが人は、その中から扱いやすい性質を選び続けた。
強さではなく、従順さ。
速さではなく、留まりやすさ。

ヒツジの家畜化は、動物が人に従った物語というより、人が動物の輪郭を削っていった過程として見る方が正確だ。

🐑 目次

🧬 1. ムフロンという祖先 ― 野生のヒツジ類

ヒツジ属(Ovis)には、現在も複数の野生種が存在する。
その代表がムフロンで、ヨーロッパムフロンやアジアムフロンなどが知られている。

  • 生息地:山地・岩場・乾燥した草原
  • 体つき:家畜ヒツジより引き締まっている
  • 被毛:季節で抜け替わる短毛
  • 角:オスでは大きく発達

ムフロンは、敵から逃げる能力と、厳しい環境で生きる力を備えている。
つまり、現在のヒツジが持たない多くの「野生の性能」を、本来は持っていた。

⏳ 2. 家畜化の始まり ― 草と群れの利用

ヒツジの家畜化は、約1万年前、西アジアの農耕社会で始まったと考えられている。
人は、狩猟の対象だったムフロンを、囲いの中で管理するようになった。

重要だったのは、ヒツジが草を食べて生きること、そして群れでまとまることだ。
穀物を人が使い、草地をヒツジが使う。
この分業は、農耕社会と相性が良かった。

最初に重視されたのは、肉と皮だったと考えられている。
羊毛が本格的に利用されるようになるのは、もう少し後のことだ。

🧠 3. 選ばれた性質 ― おとなしさと群れやすさ

家畜化の過程で、人は無意識のうちに性格を選別してきた。
人から逃げにくい個体、群れから離れにくい個体が、次の世代を残しやすかった。

  • 警戒心が弱い
  • 攻撃性が低い
  • 群れに従う傾向が強い

これらは、人にとって扱いやすい反面、野生では不利な性質だ。
ヒツジは、家畜化によって人がいないと成立しにくい存在になっていった。

🧶 4. 変わった体 ― 毛が伸び続ける理由

野生のヒツジ類は、季節に応じて毛が抜け替わる。
しかし家畜ヒツジでは、毛が自然に抜け落ちにくい個体が選ばれてきた。

その結果、多くの品種では、刈らなければ毛が伸び続ける。
これは生存能力の向上ではなく、人の利用に最適化された変化だ。

ヒツジの体は、野生への適応よりも、
「人が世話をすること」を前提に組み替えられてきた。

🌙 詩的一行

ヒツジは、人に選ばれ続けたことで、野生から静かに遠ざかっていった。

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