カビは、長いあいだ、 人間の理解を超えた変化の象徴として扱われてきた。
それは、 害だからでも、 役に立つからでもない。
人の意志とは無関係に、 物が別の状態へ移っていく。
宗教や信仰は、 この制御できない変化に意味を与えるために、 カビや菌類を語りの中に組み込んできた。
🦠 目次
⛩️ 1. 腐敗=穢れ ― 境界を示す徴
多くの宗教文化において、 腐敗は「穢れ」と結びつけられてきた。
死体、傷んだ食物、 形を失ったもの。
それらは、 生の秩序から外れた状態として扱われ、 距離を取るべき対象とされた。
カビは、 その変化を目に見える形で示す存在だった。
見えない内部の変質が、 表面に現れる。
宗教的忌避の多くは、 危険そのものではなく、 境界を越えたことを知らせる徴に向けられていた。
カビは、 「ここから先は戻れない」 という線を引く役割を担っていた。
🌾 2. 分解=循環 ― 再生の前段として
一方で、 分解は破壊としてだけ理解されてきたわけではない。
農耕文化や自然信仰において、 朽ちたものが土に還り、 次の実りを支えるという循環は、 世界の基本構造として共有されていた。
ここで重要なのは、 再生の瞬間そのものは見えないという点だ。
種が芽吹く前に、 無数の分解が起きている。
カビや菌類は、 この不可視の工程を担う存在として、 意識されていた。
破壊者ではなく、 次の状態を準備する者。
宗教的物語の中で、 菌的存在は、 終わりと始まりをつなぐ役を与えられてきた。
🦠 3. なぜ「菌」が象徴になったのか
なぜ、 数ある生き物の中で、 菌類が象徴として選ばれたのか。
理由は、 その性質にある。
- 動かないのに、変化を進める
- 増えるが、意思は見えない
- 見えないまま進行し、突然現れる
- 人の管理を簡単に超える
菌類は、 人間の因果理解から外れた存在だった。
努力でも、 祈りでも、 完全には止められない。
だからこそ宗教は、 菌を「制御できない変化」の象徴として用いた。
カビは、 善でも悪でもない。
人の世界が完全ではないことを、 沈黙のまま示す存在だった。
🫧 詩的一行
カビは、意味を失う瞬間に、人が意味を与えた存在でもある。
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