気候変動が「作物害虫」を増やす

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気候変動が「作物害虫」を増やす
― 食料安全保障を揺らす“見えない加速”を、最新レビューで整理 ―(2025年12月)

干ばつや洪水のような派手な災害だけが、食料を脅かしているわけではない。
じわじわ効いてくるのが、害虫だ。

近年の研究レビューでは、気候変動と土地利用の変化によって、作物害虫の影響が世界的に強まり、食料安全保障上のリスクが高まっていることが整理された。
ここでは、そのポイントを「難しい数式なし」でまとめる。

■ 何が起きている?:害虫が“得をする”世界

虫は変温動物で、体温も活動も環境温度に強く左右される。
つまり、気温が上がるほど、害虫側は次のような“加速”を起こしやすい。

  • 成長が早くなる(卵→幼虫→成虫のスピードが上がる)
  • 世代数が増える(年に回る回数が増え、増殖しやすい)
  • 分布が広がる(寒さで抑えられていた地域へ北上・高地化)
  • 越冬がラクになる(冬の死亡率が下がり、翌春の出発点が高くなる)

レビューは、熱帯・温帯・移動性(バッタ類など)・土壌害虫といったタイプ別に、こうした反応が世界的に増えていることを総合している。

■ どれくらい深刻?:主食作物の損失が“上乗せ”される

報道では、地球の平均気温上昇が進むと、害虫による損失が主要作物で増える見通しが紹介された。
たとえば 2℃上昇の条件で、害虫被害による損失が

  • 小麦:46%増
  • コメ:19%増
  • トウモロコシ:31%増

と見積もられる、という整理だ。
数字の前にあるのは、「気候が変わると、害虫の側の“回転数”が上がる」という構造である。

■ 気候だけじゃない:土地利用と“農業の形”が害虫を強くする

レビューが重要視するのは、原因が温暖化だけではない点だ。
土地利用の変化と農業の形が、害虫にとって有利な条件を作ってしまう。

  • 単一作物の大面積栽培(単作):害虫にとって「食べ放題の連続」になる
  • 生息地の破壊:天敵(益虫・鳥・クモなど)の居場所が減る
  • 農薬への依存:抵抗性の進化や、天敵減少によるリバウンドを招きやすい
  • 貿易・物流の拡大:外来害虫が国境を越えやすい

つまり、温暖化が“火種”を増やし、土地利用と農業の仕組みが“燃えやすい環境”を整えてしまう。
この組み合わせが、害虫リスクを押し上げる。

■ 雨が増えれば害虫は減る?:そう単純ではない

「大雨で虫が流されるなら、増えないのでは?」と思うかもしれない。
実際、強い降雨が一時的に害虫を減らすことはある。

ただし長期的には、温度上昇と湿度条件の変化が、害虫の繁殖や病原菌の広がりを助けるケースも多い。
さらに極端気象は作物側を弱らせ、害虫に“つけこむ隙”を与えることもある。

■ 対策はある:害虫を「ゼロ」にする発想から、壊れにくい畑へ

レビューや関連報道で繰り返し出てくるキーワードは、多様化監視だ。
農薬だけで押さえ込む発想は、気候が揺れる時代ほど脆くなりやすい。

  • 作物・品種の多様化:単作を減らし、害虫の“増殖道路”を切る
  • 生息地の回復:天敵が戻れる環境(花畑帯・樹木帯・水辺など)を増やす
  • IPM(総合的病害虫管理):農薬・生物防除・物理防除を組み合わせる
  • 早期警戒とモニタリング:発生初期に対処し、爆発を防ぐ
  • データとAIの活用:発生予測・被害予測を意思決定に使う

ここで大事なのは、害虫を「完全に消す」より、
被害が爆発しにくい“畑の構造”を作るという方向性だ。

■ 日本にとっての意味:国内害虫+外来侵入、両方が重くなる

日本でも、気温上昇によって害虫の発生時期が前倒しになったり、発生回数が増えたりする可能性は指摘されてきた。
加えて、国際物流が続く限り、外来害虫の侵入リスクはゼロにならない。

つまりこれからは、“国内で増える害虫”“外から入る害虫”の両方に備える必要がある。
この問題は、農家だけの話ではなく、食料の値段・安定供給にもつながっていく。

■ まとめ

  • 気候変動は害虫の成長・世代数・分布拡大を後押ししやすい
  • 土地利用変化と単作・農薬依存が、害虫の優位を強める
  • 主要作物で害虫損失が増える見積もりも示されている
  • 対策の軸は、多様化・天敵の回復・監視強化・IPM・予測
  • 日本も「国内変化」と「外来侵入」の二重リスクに備える必要がある

🌍 世界の自然ニュース(農業と気候)

参考:Nature Reviews Earth & Environment(作物害虫と気候変動に関する総説, 2025年)/The Guardian(2025年12月20日 科学報道)

― 害虫は、気候の変化を最初に利用する ―

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