人のいない島が、命を守った
― 絶滅危惧イグアナが戻ったカリブ海の小島 ―(2025年12月)
カリブ海の、小さな無人島。
かつてそこから姿を消した爬虫類が、
再び静かに数を増やしている。
レッサーアンティルイグアナ(Lesser Antillean iguana)。
世界で最も絶滅に近いイグアナのひとつだ。
長いあいだ、
この種は外来種や人間活動によって追い詰められてきた。
だが今、
人が住まない島で、
命がつながり直している。
■ 消えたはずの島に、再びイグアナがいた
このイグアナは、
カリブ海の限られた島々にのみ生息する固有種だ。
過去には、
農地開発、観光開発、
そして人が持ち込んだネコやネズミによって、
多くの島で姿を消した。
今回、
保全団体と研究者が確認したのは、
かつて「絶滅した」と考えられていた無人島での繁殖個体群だった。
島には定住者がおらず、
外来捕食者も排除されていた。
それが、
イグアナにとっては決定的だった。
■ 絶滅危惧種を追い込んだ「人の都合」
レッサーアンティルイグアナが減った理由は、
自然災害ではない。
最大の要因は、
人が持ち込んだ外来イグアナとの交雑と、
外来捕食者による卵・幼体の捕食だった。
さらに、
観光地化による生息地の分断が重なり、
「生き延びられる島」は急速に減っていった。
この種は、
逃げることも、
新しい島へ移動することもできない。
■ 無人島という「最後の避難所」
今回確認された島は、
人が住まず、
観光地にもならなかった。
結果として、
人が関与しなかったこと自体が、最大の保護策となった。
研究者たちは、
この島での個体数増加を、
「偶然」ではなく、
管理と不介入の両立がもたらした成果と見ている。
外来種を入れない。
人の出入りを制限する。
それだけで、
命は続くことがある。
■ 絶滅を止めるのは、いつも「何かをする」ことではない
保全という言葉は、
しばしば「積極的な介入」を連想させる。
だがこの島の例は、
「何もしない」という選択が、最善になる場合があることを示している。
人が近づかなかった島で、
イグアナは、
静かに世代をつないだ。
それは、
回復の物語であると同時に、
人間社会への問いでもある。
■ 世界の保全が直面する、次の段階
この成功は、
すべての場所で再現できるわけではない。
だが、
どこまで人が入り、
どこで退くのか。
レッサーアンティルイグアナが生き延びた島は、
その線引きを、
私たちに静かに突きつけている。
🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 人がいないことで守られた命 ―出典:保全団体・研究者による現地調査報告(カリブ海)
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