春の地面を割って現れる、やわらかな芽。人はそれをタケノコと呼ぶ。だが、その姿は幼体ではない。すでに完成した設計図を、内側に折りたたんだ状態で、タケは地上に出てくる。
タケの一生は、一般的な植物とは大きく異なる。芽生えから少しずつ成長するのではなく、準備された時間を一気に使い切るように伸び、その後は静かに役目を終えていく。
タケノコ、成竹、そして開花。タケの生活史は短距離走と長い待機の連なりでできている。
🎐目次
🌱 1. タケノコ ― すでに完成した芽
タケノコは、地下茎から伸び出した若い稈である。発芽したばかりの未完成な芽ではない。
- 内部:節と節間がすでに形成。
- 成長:地下で準備済み。
- 役割:地上への一気の展開。
地表に現れた瞬間から、タケノコは伸びることしか考えていない。葉を広げ、光合成する前に、高さを確保する。競争は地上に出る前から始まっている。
🌿 2. 伸長期 ― 数週間の急成長
タケの成長期は極端に短い。春から初夏のわずかな期間に、最終的な高さまで一気に到達する。
- 期間:数週間。
- 速度:1日数十cm〜1m超。
- 特徴:太くならない。
この時期、タケは葉をほとんど持たない。成長に必要な養分は、地下茎から供給される。地上部は、あくまで結果でしかない。
🌳 3. 成竹 ― 役割を担う時間
伸長を終えたタケは、成竹と呼ばれる段階に入る。ここからが、群落の一員としての役割の始まりだ。
- 光合成:葉を広げ養分生産。
- 支持:地下茎への還元。
- 寿命:数年〜十数年。
成竹はこれ以上高くならない。その代わり、次世代のタケノコを育てるために働く。タケの群落は、世代交代を前提とした分業体制で成り立っている。
🌾 4. 開花と枯死 ― 長い準備の終点
多くのタケは、数十年から百年以上を経て、一斉に開花する。
- 開花周期:種ごとに固定。
- 特徴:同一クローンが同時に開花。
- 結果:結実後に枯死。
開花は、タケにとって最終段階だ。長く地下で蓄えた時間を、たった一度の繁殖に使い切る。その後、群落は一時的に衰退し、次の世代へと場を譲る。
🌙 詩的一行
伸びきったあと、タケは静かに待つ役にまわる。
🎐→ 次の記事へ(タケ5:行動と生態)
🎐→ タケシリーズ一覧へ
コメント