🎐 ネズミ16：人間社会の影として ― 都市に生きる存在 ―

ネズミは、いつも人のすぐそばにいる。だが、正面から姿を見せることは少ない。壁の向こう、床下、夜の隙間。人が暮らしを組み立てたその裏側に、ネズミの動線が重なっている。

ネズミは都市を壊そうとしない。支配もしない。ただ、人がつくった構造の中に入り込み、そこで生きる。人間社会の「影」としてのネズミを見ていくと、都市そのものの姿が浮かび上がってくる。

🎐目次

都市は、ネズミにとって特別な場所だ。食べ物が集まり、温度が安定し、隠れ場所が多い。人が快適さを求めて整えた環境は、結果としてネズミにも適していた。

ネズミは都市を選んだのではない。都市が、ネズミにとって利用可能な環境になっただけだ。その一致が、長いあいだ続いている。

ネズミが使うのは、表に出ない空間だ。床下、天井裏、配管の周囲、物の裏側。人が意識しない場所が、そのまま生活圏になる。

これらの空間は、人の管理が行き届きにくい。ネズミはそこに留まり、移動し、増える。見えない場所での活動が、彼らの存在感を強めてきた。

人はネズミを排除しようとする。罠を仕掛け、侵入口を塞ぎ、環境を整える。だが完全な排除は難しい。

管理が進めば数は減る。緩めば再び現れる。この繰り返しは、ネズミがしぶといからではなく、都市が常に隙間を生み続ける構造だからだ。

ネズミの数や分布は、都市の状態を映す指標でもある。廃棄物、老朽化、管理の偏り。ネズミは、それらが集まる場所に現れる。

ネズミを見て嫌悪する前に、その背景を見る必要がある。彼らは都市の欠点を隠さず映し出す存在だ。

見えない場所を歩く足音が、街の裏側をなぞっている。