🎐 ネズミ15：ペットとしてのネズミ ― 見つめ返される存在 ―

ケージの中で、ネズミは人の視線を受け止める。逃げるでもなく、隠れるでもなく、じっとこちらを見る。その距離は、野生のネズミとはまったく違う。

長いあいだ避けられてきた存在が、ある場所では「一匹の生き物」として迎えられている。ペットとしてのネズミは、特別な能力を身につけたわけではない。人との距離の置き方が変わっただけだ。

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ネズミをペットとして飼うことは、一般的ではない。だが一定の人々は、ネズミの小ささや静けさに価値を見出してきた。

広い空間や強い刺激を必要とせず、限られた環境でも暮らせる。その性質は、管理のしやすさだけでなく、人との近さを生みやすかった。

ペットとして飼われるネズミは、群れの一部ではなく、個体として見られる。毛色、動き方、癖。小さな違いが、関係の中で意味を持つ。

野生では、目立たないことが生存の条件だった。だがここでは、見られることが前提になる。その反転が、ネズミの振る舞いを変えていく。

ネズミは、環境と刺激に敏感だ。繰り返される接触や音、匂いを覚え、次第に反応を変える。

これは従順さとは少し違う。相手の存在を学び、危険でないと判断した結果だ。ネズミは、相手を選んで距離を縮めている。

ペットとしてのネズミは、「害」や「恐怖」から切り離された位置に置かれる。そのことで、人は初めてネズミの表情や行動に気づく。

それはネズミが変わったのではない。人の側の見方が変わっただけだ。近づくことで初めて見えるものが、確かにある。

見つめ返す目の奥で、小さな生がこちらを測っている。