🎐 ネズミ13:実験動物としてのネズミ ― 人の代わりになった命 ―

ネズミシリーズ

白い箱の中で、同じ姿のネズミたちが飼育される。番号で管理され、同じ餌を食べ、同じ条件で生きる。その光景は、自然のネズミとは大きく異なる。だが、そこにも確かにネズミの時間が流れている。

ネズミは、長いあいだ実験動物として使われてきた。医学、薬学、生理学、行動研究。人の体や病を理解するために、人の代わりとして選ばれた存在である。その理由をたどることは、科学の歴史と向き合うことでもある。

🎐目次

🔬 1. なぜネズミだったのか

人の代わりに使われる動物は、偶然選ばれたわけではない。ネズミは、実験に向いた条件をいくつも備えていた。

体が小さく、世代交代が早い。飼育が比較的容易で、数を揃えやすい。さらに、哺乳類として人と基本的な体の仕組みを共有している。これらが重なり、ネズミは実験動物として定着していった。

🧬 2. モデル生物としての条件

実験では、同じ条件で同じ結果が得られることが重要になる。そのため、遺伝的に均一な個体が求められた。

ハツカネズミをもとにした実験用マウスは、系統が整理され、特定の特徴を持つ個体が作られてきた。病気になりやすい系統、特定の遺伝子を欠いた系統。ネズミは、研究の問いに合わせて「調整された存在」になっていった。

🏢 3. 管理される生と再現性

実験室のネズミは、自然のリズムから切り離されている。温度、光、餌、音。そのすべてが管理され、ばらつきは極力排除される。

この管理は、研究の再現性を高めるためのものだ。一方で、ネズミ本来の行動や感覚は、そこでは現れにくくなる。実験動物のネズミは、「ネズミそのもの」と「研究用のモデル」のあいだに立つ存在でもある。

🔎 4. 研究と倫理のあいだ

科学の進歩は、多くのネズミの犠牲の上に成り立ってきた。その事実は、現在では隠されるものではなく、向き合うべき課題として扱われている。

代替法の研究、使用数の削減、苦痛の軽減。実験動物をめぐる倫理は、今も更新され続けている。ネズミは、研究の対象であると同時に、問いを突きつける存在でもある。

🌙 詩的一行

整えられた箱の中で、その命は人の問いを静かに引き受けていた。

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