乾いた草原に、背の高い影が立つ。湿地に集まるツルとは違い、ここには水の気配が少ない。風に揺れる草のあいだを、ゆっくりと歩くその姿は、ツルという鳥が必ずしも水辺だけの存在ではないことを静かに示している。
クロヅルとアネハヅルは、ユーラシア大陸の内陸部を中心に分布するツルだ。湖や湿地も利用するが、生活の軸は広い草原や半乾燥地にある。日本で見る機会は少ないが、世界的には「草原のツル」として知られている。
湿地型のツルと比べると目立たない存在だが、この二種はツル科の中でも特に内陸環境への適応を進めてきた系統である。
🧾 基礎情報
- 和名:クロヅル/アネハヅル
- 英名:Common Crane / Demoiselle Crane
- 学名:Grus grus / Grus virgo
- 分類:ツル目ツル科(ツル属)
- 分布:ユーラシア大陸(ヨーロッパ〜中央アジア)
- 生息環境:草原、半乾燥地、内陸湿地、農地
- 体長:クロヅル:約110〜130cm/アネハヅル:約85〜100cm
- 翼開長:クロヅル:約200〜240cm/アネハヅル:約155〜180cm
- 体重:クロヅル:約4〜6kg/アネハヅル:約2〜3kg
- 食性:雑食(植物、穀類、昆虫、小動物)
- 繁殖:地上営巣、1〜2卵
- 寿命:野生で20年程度
- 保全状況:IUCN:クロヅル LC/アネハヅル LC
- 日本での位置づけ:迷鳥・記録は稀
🎐目次
🌿 1. 草原に立つツル ― 姿と雰囲気
クロヅルは灰色を基調とした落ち着いた体色を持ち、アネハヅルは小型で、頭部の白い飾り羽が特徴的だ。
- クロヅル:全体に灰色で、重心の低い印象。
- アネハヅル:首元の白い羽毛が目立つ。
- 体格:クロヅルは中〜大型、アネハヅルは小型。
- 飛翔:どちらも長距離移動に適した翼。
湿地型のツルよりも、風景に溶け込む姿をしている。
🏜️ 2. 内陸での暮らし ― 水に頼らない生活
これらのツルは、水辺に長く留まらない。採食や移動の多くを、乾いた地面で行う。
- 採食:草原や畑で穀類や昆虫を探す。
- 水利用:飲水以外では水辺に依存しない。
- 視界:開けた環境で危険を察知。
- 営巣:草地に簡素な巣を作る。
彼らはツルの中でも、もっとも陸に近い存在だ。
🗺️ 3. 渡りと分布 ― 大陸内部を行き来する
クロヅルとアネハヅルは、大陸内部を大きく移動する渡り鳥だ。山脈や砂漠を越えることもある。
- 繁殖地:北方の草原や湿原。
- 越冬地:地中海沿岸、南アジア、アフリカ北部。
- ルート:内陸中心で海を避ける。
- 高度:高山越えを行う例も知られる。
彼らの渡りは、大陸スケールの移動を象徴している。
🔎 4. クロヅルとアネハヅルの違い
同じ草原型のツルでも、生き方には差がある。
- 体格:クロヅルは大きく、群れも大規模。
- 軽快さ:アネハヅルは小型で機動的。
- 分布:クロヅルは西寄り、アネハヅルは中央アジア中心。
- 象徴性:アネハヅルは舞や民俗に登場する地域もある。
草原という同じ舞台で、異なる戦略をとってきた二種だ。
🌙 詩的一行
水のない場所でも、長い脚は大地の広さを測っている。
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