淡水に生きるカニは、世界に広く分布しているわけではない。海岸線ではなく、山地や森林の内側、河川の上流や湿地の奥に点在している。しかもその多くは、互いにつながらない場所に、それぞれ独立して存在している。
淡水ガニは、一つの祖先から広がった集団ではない。海を使わずに生きるという選択が、世界各地で何度も起きた結果として、地域ごとに異なる系統が生まれてきた。ここでは、世界の淡水ガニを「地域」と「淡水化の型」という視点から整理する。
🦀 目次
- 🌏 アジアの淡水ガニ ― 山地・流域固定型
- 🌴 東南アジアの淡水ガニ ― 人里共存型
- 🌍 アフリカの淡水ガニ ― 季節耐性型
- 🌎 中南米の淡水ガニ ― 孤立進化型
- 🏝️ 島嶼部の淡水ガニ ― 閉鎖進化型
- 🌙 詩的一行
🌏 アジアの淡水ガニ ― 山地・流域固定型
東アジアから中国にかけては、山地河川に適応した淡水ガニが多い。代表的なのが Potamon 属を中心とする系統で、流域ごとに異なる種が分布する。
日本のサワガニ類(Geothelphusa 属)も、この系統圏に含まれる。いずれも流域からほとんど移動せず、その川そのものを世界として生きる型である。
🌴 東南アジアの淡水ガニ ― 人里共存型
東南アジアでは、水田や湿地、用水路と結びついた淡水ガニが多い。Parathelphusa 属などが代表で、季節的な水位変化に耐える能力をもつ。
この型の淡水ガニは、自然環境だけでなく、人の営みの中で生き残ってきた。完全な原生環境ではなく、暮らしの隙間に適応した淡水化といえる。
🌍 アフリカの淡水ガニ ― 季節耐性型
アフリカでは、Potamonautes 属を中心とする淡水ガニが知られている。乾季と雨季の差が大きい地域では、穴を掘って地中で過ごす種も多い。
この型は、水が一時的に消えることを前提とした淡水ガニだ。「常に水がある」ことを前提にしない淡水化が特徴になる。
🌎 中南米の淡水ガニ ― 孤立進化型
中南米では、Pseudothelphusidae 科や Trichodactylidae 科に属する淡水ガニが多く、流域ごとに別種が並ぶ。
分布は極端に限定され、隣の川には別種がいることも珍しくない。ここでは場所そのものが種を決めるほど、孤立が進んでいる。
🏝️ 島嶼部の淡水ガニ ― 閉鎖進化型
島嶼部では、島の内部水域に閉じた淡水ガニが進化してきた。外から来ることも、外へ出ることもない。
この型は、代替の効かない存在だ。島の環境が失われれば、そのまま姿を消す危うさを抱えている。
🌙 詩的一行
世界の内側で、川ごとに別々の時間が続いている。
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