米ニューイングランドのノーザンシュリンプ漁が長期休止へ
― 海が伝える静かな減少(12月)
アメリカ北東部、ニューイングランドの冬を支えてきた小さなエビがいる。
Northern shrimp(ノーザンシュリンプ)。
学名は Pandalus borealis。
日本の市場にも並ぶホッコクアカエビに近い、冷たい海のエビだ。
そのエビ漁が2025年、
「少なくとも3年間の休止」という厳しい判断を受けた。
海の変化は、いつも小さな命から始まる。
■ 70匹しか獲れなかった調査 ― 資源は史上最低水準
資源調査で確認されたのは、わずか70匹・総重量3ポンドほど。
かつて数百万ポンドが揚がった海で、
こんな数字が出るのは前例がない。
専門家は、
海水温の上昇が幼生の生存率を下げていると指摘する。
ノーザンシュリンプは冷たい海を必要とする。
しかし近年、北西大西洋の海は確実に暖まり、
その“居場所”は急速に狭まりつつある。
世代交代が追いつかないまま、 資源は静かに細り続けた。
■ 漁が止まるとき、暮らしのかたちも変わる
冬のエビ漁は、経済だけでなく、地域文化でもあった。
だが資源の枯渇によって、
多くの漁師はロブスターやカレイへと転業を迫られている。
海が変われば、 漁も変わる。 その変化を、人の暮らしが受け止めていく。
■ 日本の海でも続く“静かな変化”
遠く離れたアメリカの話に思えるかもしれない。
だが海の変化は、国境を越えて似たリズムを刻む。
日本の海でも、 多くの魚が“いつもの場所”から姿を変えはじめた。
サンマはこの十数年、不漁が続き、
今年は一時的に持ち直した海域があったが、
資源そのものはなお低水準のまま。
スルメイカは歴史的低位を抜け出せず、
アサリは干潟から消えつつあり、
サケの回帰数は北海道で過去最低レベルが続いている。
暖流と寒流の勢力図が揺れ、
回遊の道は年ごとに変わり、
海の“当たり前”は静かに書き換えられていく。
■ 資源管理は、未来へ向けた海との対話
ノーザンシュリンプ漁の休止は、
単なる“漁の停止”ではない。
海が変わるとき、 人はその変化に耳を澄ませ、 未来のために“待つ”という選択をする。
大西洋でも、 太平洋でも、 その営みは同じだ。
海はいつも、 静かな変化のなかに、 これからを映している。
🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 海が知らせる静かな変化 ―出典:AP News “New England’s shrimp fishery to shut down for the long haul after years of decline”(2025) ほか
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