🦗鈴虫6:雄と雌 ― 音がつなぐ出会い

スズムシシリーズ

― 声で結ばれる命 ―


🗂目次


🎵鳴く理由

鈴虫の声は、雄だけが出す。
それはただの習性ではなく、
一生の目的そのものだ。

鳴くという行為に、
命のすべてが注がれている。

その音は、
「ここにいる」と伝えるための言葉。
見えない夜の中で、
音だけが互いをつなぐ。


💫音の呼び声

雌は声の中に“違い”を聴いている。
わずかな高さ、響きの深さ、鳴く間の取り方。

それらが、その雄の強さや成熟を伝える。

夜の草むらでは、
何匹もの雄が同時に鳴き、
音の重なりが風のように流れる。

その中で、ひとつの声が選ばれる。
雌が近づくと、雄は鳴くのをやめ、
静かに翅を畳む。


🌾出会いの儀式

近づいた雌に、
雄は体を傾け、触角でそっと触れる。

短い沈黙のあと、交尾が行われる。
わずか数分。
その間、世界は音を止める。

音のあとに訪れる静寂は、
まるで森が息をひそめて
この瞬間を見守っているようだ。


🌙命の継承

交尾のあと、雌は腹部の長い産卵管で
柔らかい土に卵を埋める。
そこには次の季節の音が眠る。

雄は鳴き続ける。
その声はもう、求愛のためではなく、
夜そのものを照らす灯りのようだ。

命が終わるまで鳴き、
音が消えるとき、
秋も終わる。


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