― 音が生まれる場所 ―
🗂目次
🌿翅の光
鈴虫の翅は、光を受けるとほんのりと輝く。
透明な膜の下には、細い筋が幾何学のように走り、
その一本一本が音を支える。
夜の灯りの中で翅が動くと、
かすかな反射が音より先に空気を震わせる。
それは、鳴き声が生まれる“前奏”のようだ。
🎶鳴くための構造
翅の片側には細かいギザギザがあり、
もう一方にはそれを擦るための刃がある。
この二枚を素早くこすり合わせることで、
あの「リーン」という音が生まれる。
単純に見える仕組みの中に、
音の高さ・響き・間が隠されている。
まるで小さな弦楽器のように、
彼らは翅で世界を奏でているのだ。
🌌音を支える身体
翅を動かすのは、胸の奥の筋肉。
小さな身体が、全身で音を押し出す。
鳴くときの鈴虫は、
まるで息をしているように微かに震える。
その鼓動のひとつひとつが、
季節を進める音になる。
🌙透明の意味
なぜ翅は透明なのか。
それは光を通すためではなく、
音を濁らせないためだと言われている。
余分な厚みを持たず、
空気に近いほど純粋な響きが生まれる。
透明とは、この虫にとっての“削ぎ落とされた生”。
命を削り、音だけを残す。
秋の夜、その透明な翅が季節を震わせている。
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