🐋クジラ13:海洋生態系での役割 ― 栄養循環とクジラポンプ ―

クジラシリーズ

― クジラは“巨大な生き物”であるだけではない。
海の生産力を押し上げ、栄養を動かし、深海を支え、
ときには死後すら海の循環に組み込まれる。
その働きは、海洋生態系全体を動かす静かなエンジンのようだ ―


🪸目次


🔁 1. 海の生産力を支える ― クジラポンプとは何か

クジラポンプ(Whale Pump)とは、クジラが海の深い場所から栄養を運び、
光が届く表層へ循環させる仕組みを指す。

  • 深い場所で餌を食べる
  • 表層で呼吸や休息をする
  • そのとき排出する糞に栄養(鉄・窒素)が多く含まれる

この栄養は植物プランクトンの成長を促し、
海全体の生産力を底上げする。


🌱 2. 光の届く海へ栄養を戻す ― 垂直循環のしくみ

クジラが行うのは、海の中の“栄養の持ち上げ”である。

  • 深い海 → 餌となるイカや魚を食べる
  • 表層 → 糞や体表の剥がれ落ちた物が栄養源に
  • 植物プランクトンが増える → 小魚が増える → 大型魚が育つ

クジラは、海の生産性が高い海域をさらに豊かにする存在だ。


🦐 3. 餌生物への影響 ― 小さな生き物を増やす巨体

クジラの排出物には、植物プランクトンに必要な鉄分が多く含まれる。
鉄が増えれば植物プランクトンが増え、
それを食べるオキアミや小型甲殻類も増える

  • 大型クジラの採餌 → 餌生物の循環を刺激
  • 餌が増える → クジラ自身も再び豊かに食べられる
  • 長期的には海全体の安定性につながる

“巨体による小さな生き物への恩恵”が、海を支えている。


⚓ 4. クジラフォール ― 深海を育てる“沈む森”

クジラフォール(Whale Fall)は、クジラが亡くなった後、
その体が海底へ沈み、深海の生態系を長期間支える現象。

  • 数十年以上、深海生物の住処と栄養源になる
  • 特殊なバクテリアや深海生物が定着する
  • 深海の“孤立した島”のような役割

海底に降りるその巨体は、深海にとって貴重な“森”になる。


🌍 5. 捕食・行動が生む間接効果 ― 海の食物網を動かす力

クジラは直接的な捕食だけでなく、
その行動全体が海の食物網をゆるやかに動かす。

  • 捕食による獲物の分布変化
  • 群れの移動が小魚や海鳥の活動に影響
  • 大型肉食種(シャチなど)との関係が海の均衡を作る

海はひとつの大きな網であり、クジラはその網の“要”として働いている。


🌙 詩的一行

深い海から運ばれた小さな光が、静かに海を満たしていく。


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