🌿 チャノキ13:火入れ ― 香りを決める最後の工程

チャノキシリーズ

― 最後にふわりと立ち上がる香り。その陰には、火と温度を見極める細やかな技がある ―

火入れ(ひいれ)は、茶づくりの最終段階に位置する工程であり、茶の香りの方向性を決定づける核心だ。弱火で甘い香りを引き出すのか、強火で香ばしさを与えるのか――温度と時間の調整ひとつで、同じ茶でもまったく違う表情になる。

🌿目次

🔥 1. 火入れとは ― 最後に香りを整える工程

火入れは、乾燥した茶葉に熱を加えて香りを仕上げる工程。火を入れることで、茶の中に眠っていた香気成分が目を覚まし、香りが明確な形になっていく。

  • 香りを立たせる
  • 湿気を抜き保存性を高める
  • 味の方向性を整える

火入れが弱いと未熟な香りになり、強すぎると香りが飛ぶ――調整の妙が問われる工程だ。

🌬 2. 温度と時間 ― 香りを分ける二つの軸

火入れの香りは、主に温度時間の組み合わせで決まる。

  • 低温 × 長時間 → やわらかく甘い香り
  • 高温 × 短時間 → 焙煎香・香ばしさが強い

ほんの数十秒、数℃の違いで、茶の表情は驚くほど変わる。

🍯 3. 弱火の火入れ ― 甘さと丸みを引き出す

弱火の火入れは、茶の甘さや丸みを引き出す。新茶特有の爽やかな香りも残しやすい。

  • 若い香り(青葉香)を活かす
  • 甘みと柔らかさを保つ
  • 煎茶・玉露などに適する

優しい香りを求める産地では、弱火の火入れが好まれる。

🔥 4. 強火の火入れ ― 香ばしさとキレをつくる

強火の火入れは、焙煎香や香ばしさを前面に出す。番茶やほうじ茶は強火の代表だ。

  • 香ばしさが立ち上がる
  • キレのある味わい
  • 夏の葉や硬い葉との相性が良い

香りの方向を大きく変える強火は、茶葉の個性を“再構築”する力を持つ。

🌫 5. 産地ごとの火入れ文化 ― 香りの個性を形づくる

火入れの強弱は産地の文化とも深く結びついている。

  • 京都宇治 → 弱火で柔らかい香りを重視
  • 静岡 → 中火で爽やかさと香りのバランス
  • 九州(八女・知覧) → やや強火で力強さを出す

茶の香りは、土地ごとの火入れ哲学の反映でもある。

🌙 詩的一行

火と葉が静かに向き合う場所で、香りは最後の形をまとってゆく。

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