🐝ミツバチ14:養蜂の文化 ― 木の洞から巣箱へ

ミツバチシリーズ

― 人は蜂の巣と向き合いながら、甘さと生きる知恵を育ててきた ―

養蜂の歴史は、蜂を飼う技術というよりも
「蜂と人がどう距離を取ってきたか」の物語に近い。
木の洞を探すだけだった時代から、巣箱を置き、季節を読み、蜜を分けてもらうようになるまで――。
そこには、自然の力を“支配せずに利用する”という、古い暮らしの知恵が残っている。


🐝目次


🌲 木の洞の巣を探す時代 ― 採蜜の始まり

人が蜂蜜を得る最初の手段は、
ただ“巣を見つけて採る”だけだった。 木の洞、崖の割れ目、屋根裏――蜂が選んだ場所に人が登り、巣を削り取る。

・煙で蜂をいぶして静める
・巣板を切り取り、蜜・花粉・幼虫をすべて利用する
・蜂の再生は自然まかせ

この頃の採蜜は“共生”というより、季節の恵みを一度きり頂く行為だった。


🏺 古代の養蜂 ― 土器・筒巣・素焼きの巣箱

次第に、人は蜂を「飼う」という発想を持ちはじめる。
古代エジプトの壁画には、筒状の素焼きの巣箱が描かれており、蜂を家に導く技術がすでに成立していた。

・土器を並べて巣を作らせる
・煙で蜂を落ち着かせ、前面から採蜜
・巣を壊しながら蜜を取る“破壊採蜜”が主流

この段階でも巣は再利用されず、蜜を得るたびに作り直させるという、古い形の養蜂だった。


🌏 世界に広がる巣箱文化 ― 地域ごとの知恵

養蜂の形式は、地形や気候によって大きく分かれる。 ヨーロッパでは編んだワラのスケップ、中東では土と藁を固めた巣箱、 アジアでは竹筒や丸太を使った巣箱が発達した。

・寒冷地:断熱性を高めた厚い巣箱
・乾燥地:温度変動を避ける土製巣箱
・森林地帯:丸太や空洞木を再利用
・農耕地:移動可能な巣箱で受粉を補助

どの地域でも、人は蜂の性質を読み、
蜜を分けてもらうための“距離感”を工夫し続けてきた。


🌾 日本の伝統養蜂 ― 山里に生きたニホンミツバチ文化

日本の伝統養蜂は、世界でも珍しい「自然入居を待つ養蜂」が中心だった。 巣箱だけを作り、山の香りをまとう春の風にまかせて、蜂が入ってくるのを待つ。

・丸太をくり抜いた“重箱式巣箱”
・蜜は年に一度、巣を壊しながら採る
・蜂は巣箱を捨てて山へ帰ることも多い
・蜜は少ないが、花の香りが濃く、非常に希少

「蜂が来てくれた」 その一瞬の喜びを大切にする文化は、里山の暮らしと深く結びついていた。


📦 近代養蜂の誕生 ― ラングストロス巣箱と革命

19世紀、アメリカのラングストロスによって、 「可動式巣枠(フレーム)」が発明される。 これが現代養蜂の大革命となった。

・巣を壊さずに蜜だけを採取できる
・蜂の健康状態を管理しやすい
・巣枠を交換して蜂に負担をかけない
・移動養蜂が可能になり受粉効率が大幅に向上

この技術が世界中に広がり、蜂蜜は日常の食卓に届く“安定した資源”へと変わっていった。


🌙 詩的一行

木の洞から巣箱へ――甘さを分け合う知恵は、静かに受け継がれてきた。


🐝→ 次の記事へ(ミツバチ15:蜂蜜と食文化 ― 甘さの技法 ―)
🐝→ ミツバチシリーズ一覧へ

コメント

タイトルとURLをコピーしました