🐝ミツバチ5:セイヨウミツバチ ― 世界に広がる働き手

ミツバチシリーズ

【分類】ハチ目(膜翅目)ハナバチ科 ミツバチ属(セイヨウミツバチ)
【学名】Apis mellifera(アピス・メリフェラ)
【体長】働き蜂:12〜14mm/女王蜂:18〜20mm/雄蜂:15〜17mm
【群勢】3〜5万匹(最大6万匹)
【行動半径】約2〜3km(最大5km以上)
【寿命】働き蜂:夏約30〜45日/冬約3〜5か月
【分布】世界中(原産:欧州〜中東)
【巣の特徴】巣箱との相性がよく、まっすぐな六角巣房を大量に構築する
【食性】蜜・花粉・樹脂(水・プロポリスも利用)
【季節】春〜夏に群勢拡大、秋に蓄え、冬は巣内で越冬
【性質】温厚・定着性が高い/環境変化に強い
【病害】バロア症、ノゼマ症、アメリカ腐蛆病に弱い
【人との関わり】蜂蜜生産、蜜蝋利用、農業の受粉サービスの中心種


― 世界の果樹園を支え、蜂蜜産業を形づくってきた中心的なミツバチ ―

セイヨウミツバチ(Apis mellifera)は、現代の養蜂・農業・生態学の中心にいる存在だ。
温厚で扱いやすく、採蜜量が多く、群れの安定性が高い。
この種がいなければ、世界の食料生産は大きく揺らぐとまで言われている。


🐝目次


🌍 養蜂を支えてきた“家畜化されたミツバチ”

セイヨウミツバチが持つ最大の特徴は、
半ば家畜化された存在であることだ。

・巣箱に定着しやすい
・群勢が大きく維持しやすい
・改良品種(イタリア種、カーニオラン種など)が多い

近代養蜂を象徴する「ラングストロス巣箱」は、セイヨウミツバチの性質に合わせて設計されている。
巣枠を引き抜く方式により、
大量養蜂・移動養蜂・受粉移動が可能になった。


🍯 行動と生態 ― 分業・温度管理・飛行能力

セイヨウミツバチの群れは、
高度な社会性によって動いている。

・分業(高度な仕事の分かれ方)
幼虫の世話/清掃/巣作り(蜜蝋生産)/採蜜・花粉運搬/温度調整(羽ばたき冷却)

・温度管理
巣内温度は34〜36℃で安定。暑い日は入口で数百匹が羽ばたき、寒い日は球状に集まり熱を生む。

・飛行能力
1日に数百〜1000以上の花を訪れ、行動半径は約2〜3km(条件によっては5km以上)。

小さな体なのに、この行動力が
“世界トップクラスの採集者”と呼ばれる理由だ。


🌸 採蜜力の高さ ― 花を渡り歩く効率の源

セイヨウミツバチの群れは、
蜜を集める速度と量が大きいことで知られている。

・個体の飛行距離が長く、訪花回数も多い
・蜜を巣に持ち帰ると、素早く水分調整と加工が行われる
・大きな群勢によって採集作業が一気に進む

養蜂家がこの種を選ぶ最大の理由は、
群れの安定性と生産効率が段違いだからだ。


🏺 世界の養蜂史 ― 人と歩んだ長い時間

セイヨウミツバチの歴史は古く、古代エジプトの壁画にも養蜂の姿が描かれている。

・古代〜中世
ヨーロッパ各地で飼育され、宗教儀式・薬・保存食として蜂蜜が利用された。

・近代
ラングストロス巣箱(1852年)の登場で、巣枠を差し替えながら管理できるようになり、
大量養蜂と移動養蜂が現実になった。

・現代
アーモンド畑や果樹園へ、トレーラーに乗せた巣箱が移動する「受粉サービス」が一般化し、
世界中の農業を陰から支えている。

もはやセイヨウミツバチは、
世界の農業インフラの一部といえる。


🔄 ニホンミツバチとの違い ― 生き方・性質・蜜

よく問われるのが、「ニホンミツバチとセイヨウミツバチの違い」だ。要点を比べてみる。

・定着性
セイヨウミツバチ:巣箱に定着しやすく、群れが安定しやすい。
ニホンミツバチ:環境が悪いと巣ごと移動する「逃去性」が高い。

・採蜜量
セイヨウ:商業生産に向く大量採蜜。
ニホン:採れる量は少ないが、風味が濃く希少。

・巣の作り方
セイヨウ:巣箱内にまっすぐな巣板を並べる。
ニホン:木の空洞や軒下など、自然の隙間を活かして巣をつくる。

・病害
セイヨウ:バロアダニや各種病原体に弱く、管理が欠かせない。
ニホン:野生状態が多く、耐性が比較的高いとされる。

どちらが上という話ではなく、
役割と生き方の違うミツバチとして、それぞれの場で活躍している。


🌾 受粉産業 ― 世界の農業を支える影の主役

セイヨウミツバチは今、受粉サービス(ポリネーション・サービス)の中心的な担い手だ。

・アーモンド、ブルーベリー、リンゴ、ナシ、モモ、メロン、スイカなど、
多くの作物がセイヨウミツバチの訪花によって実を結ぶ。

アメリカのアーモンド農場では、開花期に
何百万群ものセイヨウミツバチがトレーラーで運び込まれる。
その働きがなければ、収量は大きく落ちてしまう。

見えないところで動き続けるその群れは、
まさに“影の農業労働者”といえる。


🌙 詩的一行

花畑の奥をめぐる羽音が、遠く離れた国の実りまでもそっと支えている。


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