🌾イネ19:古代米 ― 失われた色を残す粒たち

イネシリーズ

― 過去の田んぼに揺れていた、色のついた稲 ―

いま私たちが日常で口にする白い米粒。 しかしかつてのアジアには、黒、赤、緑―― 色をまとった稲が広く育てられていた。 これらは総称して古代米と呼ばれ、 失われた風景と人々の営みを静かに伝えている。


🌾目次


🟣 古代米とは ― 色を宿す稲の総称

古代米とは、品種名ではなく「色素を多く含む古い系統の稲」の総称。 代表的なのは次の3つだ。

黒米(紫黒米)
赤米
緑米

これらは白米のように精白すると色が抜けるのではなく、 籾殻や糠層そのものに色素があるため、 存在そのものが「色を持った稲の系統」といえる。

⚫ 黒米(紫黒米) ― 守られてきた濃い紫

黒米は、粒の外側に紫黒色の色素(アントシアニン)が多い品種。 炊くと美しい紫色になり、栄養価が高いことから “薬米”として神事や祝い事にも使われてきた。

・アントシアニンが豊富
・粒表面が濃い紫〜黒色
・日本各地でわずかに継承されてきた在来の稲

近年は健康志向から再び注目され、地域ブランドとして復興が進んでいる。


🔴 赤米 ― 稲作の源流を示す粒

赤米は、糠層に赤いタンニン色素を多く含む古い系統。 日本に稲作が伝わった当初は、この赤米が主流だったともいわれる。

・粒の外側が赤〜赤褐色
・収穫すると籾全体が赤く染まる
・神社の神饌として受け継がれた地域もある

赤米は稲作史と深く結びつき、 「日本の稲作文化の生きた証拠」として大切に守られてきた。


🟢 緑米 ― 失われかけた希少な系統

緑米は、粒表面が薄い緑色を帯びる希少な古代米。 流通量はわずかで、生産されている地域も限られている。

・淡い緑色が特徴
・粘りが強く、食味に優れているとされる
・在来品種として一部地域にのみ残る

鮮やかではないが、しずかな色を宿した粒は、 古い稲作の多様性を今に伝えてくれている。


🌾 白米への道 ― 多様な色から“白”が選ばれた理由

かつて稲は多くの色をまとっていた。 それが次第に白米が主流になった背景には、 いくつかの理由がある。

・色素が少ないほうが食味が安定しやすい
・精米技術の発達で「白米を好む文化」が広がった
・保存性や調理のしやすさ

しかし、古代米が消えたわけではなく、 地域の祭礼や在来品種の保存活動の中で、 今もひっそりと受け継がれている。

🌙 詩的一行

色を宿した粒が、昔の田んぼの気配をそっと照らす。


🌾→ 次の記事へ(イネ20:稲作と暮らし ― 水と季節のあいだで)
🌾→ 稲シリーズ一覧へ

コメント

タイトルとURLをコピーしました