赤い実の表面を光が滑る。
その甘さの裏側で、ひそかに動く命がある。
名前はAcanthococcus fragariae。
2025年、フロリダ州で新たに確認されたイチゴの害虫だ。
この虫は「フェルトスケール」と呼ばれる小さな昆虫の仲間で、
体長は1ミリにも満たない。
葉の裏に棲みつき、綿のような白いワックスで身を覆う。
それが日差しを反射し、まるで小さな雲のように見える。
研究チームはこの虫を、
アメリカ南東部のストロベリー農園で発見した。
成虫・幼虫・雄・雌――すべての形態が記録され、
属の再分類まで行われた。
発表は学術誌 Zootaxa(2025年11月5日)。
フェルトスケールは植物の汁を吸う。
だが単なる“害虫”ではない。
彼らは温度や湿度、農薬や光に敏感に反応しながら、
環境の変化を鏡のように映す存在でもある。
近年、温暖化によりこの種の分布は拡大傾向にある。
果樹園の片隅で、新しいバランスが生まれているのかもしれない。
自然の秩序の中で、人が“守りたい味”と
“適応し続ける命”が出会う場所――それが畑という小さな宇宙だ。
白いワックスの下で、この虫は今日も息づいている。
私たちの知らないところで、
果実と共に季節を生きている。
🌏 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 変わりゆく地球を見つめる観察記 ―出典:Zootaxa Vol. 5717 No. 2(2025年11月5日)/Smithsonian/USDA Agricultural Research Service
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