🦌シカ2：角と姿 ― 時を測る枝 ―

― 時を測る枝 ―

春の森、まだ寒さが残る空気の中で、
シカの頭に小さな枝のような角が芽吹く。
夏には立派な枝角となり、秋にはそれをぶつけ合い、
冬には静かに落とす――それが、彼らの一年の時計だ。

🌾目次

シカの角は「骨」であり、毎年生え替わる。
春に皮膚の下から柔らかな角が伸び、血管が栄養を運ぶ。
やがて角皮が剥がれ、秋には硬く光る枝角となる。
そして冬、角は自然に落ち、次の年の命がそこから始まる。

角の再生は、季節のリズムを映す。
春に芽吹き、夏に育ち、秋に競い、冬に手放す。
その循環は森の時間と重なり、
シカという存在が自然とともに呼吸していることを教えてくれる。

立派な枝角は、力と成熟の証。
オスは秋に角を突き合わせ、繁殖の権利をめぐって戦う。
しかしその角は、冬が来れば静かに地に落ちる。
森に残された角は、命の証であり、自然の詩でもある。

枝角は、森が刻む時間のかたち。