🌰栗15：栗と暮らし

― 日常の中の森 ―

秋になると、台所のざるに栗が転がる。
皮をむき、湯気の立つ鍋に入れる。
その香りが、家の中に森の気配を連れてくる。
栗は特別なものではなく、日々の暮らしに寄り添う森の記憶だ。

🌾目次

栗ごはん、渋皮煮、甘露煮。
ひとつの実から生まれる料理は、どれも秋の香りをまとっている。
食べるたびに、山の色や風の匂いが思い出される。
栗は森と食卓を結ぶ、小さな橋のような存在だ。

昔の人は、栗を水に浸したり、土の中に埋めたりして保存した。
冷たい土の中で眠る実は、やがて春まで食を支える。
保存の工夫は、自然のリズムを読み取る知恵のかたち。
季節とともに生きる感覚が、そこに息づいている。

秋になると、祖母が渋皮をむき、子どもが手伝う。
湯気の立つ鍋を囲む時間は、何よりの団欒だった。
栗は家族の中に受け継がれる“季節の物語”。
その香りと味が、記憶の中の森を今に残している。

湯気の向こうに、森の気配がある。