リス6：ドングリを埋める ― 森に残る手のあと ―

秋になると、森のあちこちでリスが忙しそうに動く。
枝から枝へ、地面へ、また木の上へ。
その目的はひとつ——冬のための食料を埋めること。

ドングリを口にくわえ、掘り、埋め、覆う。
それが森の未来をつくっている。

リスは秋になると、木の実を土中や落ち葉の下に埋める。
これを「埋蔵行動」と呼び、主に冬の食料備蓄として行われる。
同じ場所に複数の埋蔵点を作り、場所を記憶して回収する。
回収できなかったものが、やがて芽吹く。

リスは嗅覚と空間記憶を使って埋めた場所を探し出す。
しかし、すべてを思い出せるわけではない。
忘れ去られたドングリが発芽し、
新しい樹木として森の更新に加わる。
埋め忘れこそが、森を育てる行為になる。

リスの行動は単なる貯蔵ではなく、
種子散布者としての重要な役割を持つ。
広葉樹の分布を広げ、森の多様性を支える。
一匹の行動が、数十年後の森の姿を変えることもある。

忘れられた実が、森をつくる。