クマが増えた秋、日本の森が語るもの(2025年10月26日)
今年の日本の森は、いつもより静かで、そして危うい。
秋に入り、クマの出没が相次いでいる。
各地で被害が報じられ、
この一年だけで七人が命を落としたという。
専門家は「餌の不足と気温の上昇が重なった年」と語る。
ドングリやブナの実のなり年が悪く、
山の奥に食べ物がない。
その飢えが、森を人の暮らしの近くまで押し出している。
けれど、問題は数だけではない。
森と人の境界が、もう地図の線だけでは
区切れなくなっていることだ。
道路が伸び、住宅が増え、
人の生活圏がゆっくりと森を侵食してきた。
その結果、野生の生き物が「人の世界」に現れるのではなく、
私たちが「森の世界」に入り込んでいるのかもしれない。
クマは獰猛な捕食者ではない。
多くは臆病で、木の実を探して生きている。
それでも、恐怖の象徴として語られるのは、
わたしたちが“自然の予測不能さ”を
忘れてしまったからだろう。
森に住む命と、人の暮らし。
どちらが悪いわけでもない。
ただ、長い時間の中で築かれてきた均衡が、
今、目に見えないところで少しずつ揺らいでいる。
それは気温の変化だけではなく、
私たちの暮らし方そのものの変化でもある。
夜明けの山に響く一声は、
恐怖の音ではなく、
森がまだ生きているという証。
その声に耳を傾けることが、
共に生きるということの始まりなのかもしれない。
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