🐻熊11:ツキノワグマ ― 闇に月をかかげるもの

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― 山の影にひそむ光 ―

分類:哺乳綱 クマ科
学名:Ursus thibetanus japonicus
分布:本州・四国の山地(九州では絶滅)
体長:オス 1.2〜1.6m/メス 1.0〜1.3m
体重:オス 約60〜120kg
食性:雑食(木の実・果実・昆虫・若葉など)
冬眠:12月〜4月頃、樹洞や岩穴で冬眠
特徴:胸の白い三日月模様。樹上行動に優れ、警戒心が強い。
文化:古来より「月の輪熊」として語られ、山の精・闇の守り神とされた。

山の朝は、霧の匂いから始まる。
冷えた葉の上に光が落ち、
その奥で、黒い影がゆっくりと動いた。

ツキノワグマ。
胸の白い印は、夜の光を抱いたようで、
闇を恐れず、しかし決して闇を壊さない。

森の奥で生きるこの熊は、
静けさの中に潜む賢さと、
人との距離を知る慎重さを併せ持っている。

🌳森を歩くもの

ツキノワグマの足跡は軽い。
落ち葉を踏んでも音が小さく、
その歩みはまるで森に溶けるようだ。

食べるのは木の実、山葡萄、ドングリ、時にアリの巣。
秋の実りが少ない年、山を降りてくる姿は、
人の里との境をまたぐ瞬間でもある。

彼らは生まれつき、人を避けて生きている。
けれど森が痩せると、その境が曖昧になる。
夜、田畑の匂いに導かれて、
闇の中をそっと横切っていく。

🌙闇と光の印

胸の白い模様は「月の輪」。
光が闇に宿るしるし。
古くから人はこの印に意味を見いだしてきた。

月のように現れては消える存在。
夜の森を守る神として描かれ、
山の信仰や昔話の中では「導きの獣」と呼ばれることもあった。

その姿は、恐れとともに祈りの対象でもあった。
「夜の熊に出会ったら、道を譲れ」
そんな言葉が、今も山里に残っている。

🍂木々の記憶の中で

ツキノワグマは木登りがうまい。
高い枝に登って木の実を落とし、
何年も通う木には、爪の跡が層のように残る。

それは森の時間のしるし。
ひとつの木の幹に、
何代もの熊の記録が刻まれている。

🕯静かな共存

人と熊との境界は、
いつの時代も「揺らぎ」の中にある。
ツキノワグマは、
人の世界に最も近い熊。

だからこそ、
その静かな存在を知ることは、
森の奥に潜む命の鼓動を聴くことでもある。

彼らの目の奥にある光は、
森と人とのあいだに浮かぶ月のように、
消えず、けれど眩しすぎない。

次章では、
クマと人とがともに生きてきた文化の記憶へと歩を進めよう。
狩り、祈り、祭り――
そこには、恐れと敬意が重なりあっていた。

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