🍄きのこ12:キクラゲ ― 耳のような記憶

分類:ヒダナシタケ目 キクラゲ科 キクラゲ属
学名Auricularia auricula-judae
分布:日本・東アジア・熱帯地域
発生環境:倒木・枯れ枝(特にニワトコやクワ類)(腐生菌)
傘径:3〜10cm前後
食性:分解型(木を腐らせ、栄養を得る)


🌳外見と生態

キクラゲは、木の幹にそっと耳を当てているような形をしている。
半透明の褐色、薄く弾力のある質感。
雨が降ると水を含み、光を透かすと琥珀のように輝く。

木の表面にぴたりと張りついて、
音もなく、ゆっくりと成長していく。
その姿は、まるで木の声を聴いているようだ。
木が枯れたあとも、そこに残る記憶や水の流れを、
自分の身体でなぞるように生きている。

キクラゲの菌糸は、幹の中に入り込み、
時間の層をひとつひとつほどいていく。
その過程で木は少しずつ柔らかくなり、
森の中へと帰っていく。
耳の形は偶然ではなく、森の記憶を受け取るためのかたちにも思える。


🍽️人との関わり

食用としては古くから親しまれ、
中華料理や和食にも登場する。
乾燥すると硬く縮み、水に戻すとぷるりと蘇る――
その変化は、森の再生のようだ。

味に強い個性はないが、
その静かな歯ざわりは料理全体をやわらかくまとめる。
キクラゲは“主張しない豊かさ”を持つきのこ。
陰のように存在しながら、確かな調和を生み出す。

古くは薬用としても重宝され、
「血を整える」「体を潤す」食べ物とされてきた。
森の湿り気をそのまま受け継いだきのこは、
人の体にもやさしく染みていく。


🌾文化と象徴

キクラゲの耳のような形は、
「森が記憶するための器」にも見える。
幹の中に残された風の音、鳥の声、
すべてを吸い取って、
その静けさの中に溶かしていく。

枯れた木の上に現れるその姿は、
“忘れられたものを聴く者”のようだ。
森の語らない声を受け取り、
何も言わずに消えていく。

人がそれを食べるとき、
もしかしたら私たちは、
木々の記憶をひとくち分けてもらっているのかもしれない。


✨詩的一行

森の声を、耳で聴くきのこ。
それが、キクラゲ。

🔗 キノコ(食用)シリーズ一覧へ戻る

コメント

タイトルとURLをコピーしました