🍄きのこ11：ヒラタケ ― 平たくひらく生

分類：ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属
学名：Pleurotus ostreatus
分布：日本・東アジア・ヨーロッパ・北米など
発生環境：倒木・切り株・枯れ枝（腐生菌）
傘径：5〜15cm前後
食性：分解型（枯木や落葉を養分にする）

ヒラタケはその名の通り、傘が平らにひらく。
森の倒木に沿うように、何層にも重なって生え、
まるで木の皮に咲く花のようだ。

湿度の高い日には、その平らな面に水滴がたまり、
陽の光を受けて淡く輝く。
風が通ると、薄い傘がわずかに揺れ、
森の空気がその下を抜けていく。
静かで、よく聴くと風の音と同じリズムで呼吸しているように見える。

菌糸は木の内部に深く入り込み、
枯れた細胞をほぐして新しい土へと還していく。
森のなかで「分け合う」という行為を、
その平たい形で体現しているかのようだ。

ヒラタケは古くから食用きのことして知られてきた。
旨味が深く、歯ざわりがしっとりとしている。
煮ても焼いても崩れにくく、
味噌汁や炊き込みご飯、炒め物など、
どんな料理にもなじむ柔らかさを持っている。

かつては冬の食材として重宝され、
雪の下から顔を出す姿を“寒茸（かんたけ）”と呼ぶ地域もあった。
寒気にも強く、
人々の暮らしの中で“粘り強さ”や“穏やかな強さ”の象徴とされた。

菌床栽培が始まる以前は、
農家や林業の人々が倒木に菌を移し、
春まで静かに見守っていた。
ヒラタケがひらくのは、森が整っている証拠。
木が眠り、土が落ち着き、水が巡るとき、
その輪の中で平らな傘がゆっくり広がる。

ヒラタケの「平らさ」は、森の調和を映している。
争わず、覆い隠さず、ただ静かに受け止める。
それは、自然の中にある“やわらかな平等”のかたちだ。

人の社会もまた、
それぞれがひらいて重なりながら、
ひとつの面をつくっていく。
ヒラタケの森を見ていると、
世界がもう少しだけ静かで優しいものであってほしいと、
そんな気持ちになる。

生きるとは、ひらくこと。
森の底で、ヒラタケがそう教えている。