🦀蟹8:イソガニ ― 潮の狭間に立つ者

― 海と陸のあいだで、息をつく ―


📘 基本情報(図鑑データ)

  • 分類:節足動物門 軟甲綱 十脚目 イワガニ科
  • 学名Gaetice depressus
  • 分布:北海道以南の日本各地の潮間帯
  • 体長:甲幅2〜3cm
  • 特徴:平たい甲羅、黒褐色。干潮時に岩場を素早く動き回る。
  • 食性:小型の貝・藻類・有機物など。
  • 生息環境:岩礁や防波堤など、海水がかかる範囲(潮間帯)。
  • 文化:磯遊びや漁港の風景によく見られ、親しみのある小型種。

❄️ 生態 ― 潮が引く、その一瞬に
潮が静かに引いていく。
海が残していった水たまりに、
イソガニの群れが現れる。

濡れた岩の上を、
小さな脚で一斉に走り出す。
潮の音が遠ざかり、
空気が満ちていく。

イソガニはそのわずかな時間のために生きている。
海と陸、どちらにも属さず、
ただその“あいだ”に身を置く。
潮が戻るとき、彼らはまた水の下へ消えていく。


文化 ― 子どもの手の記憶
防波堤や磯場で、
子どもたちが小さなカニを追いかける。
逃げ足は速く、
その甲羅は石と同じ色をしている。

捕まえても、すぐに離してやる。
指先に残る感触と、
少しの潮の匂い。
それが夏の記憶になる。

誰もが一度は見たことのあるカニ。
名を知らずとも、
その姿は心に残る。


🌕 象徴 ― あいだに生きるということ
海でも陸でもない世界。
波が届くか届かないかの場所に、
イソガニは立っている。

その小さな体は、
“境界で生きること”の象徴だ。

どちらかに決めない、
どちらにも逃げない。
潮が来れば受け入れ、
潮が引けば動き出す。

あいだに生きる命の強さを、
イソガニは知っている。

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