― 深き影に、静かな力 ―
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📘 基本情報(図鑑データ)
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- 分類:節足動物門 軟甲綱 十脚目 タラバガニ科
- 学名:Paralithodes platypus
- 分布:北海道〜本州北部、オホーツク海、ベーリング海東部
- 生息環境:水深200〜600mの深い冷水域
- 体長:甲幅約22cm、脚を広げると約1m
- 特徴:タラバガニに酷似するが、やや褐色で甲羅の棘が少なく滑らか。
- 食性:貝類・小型甲殻類・死骸などを食べる雑食性。
- 漁期:主に春〜夏。地域によりタラバガニと混獲される。
- 文化:市場ではタラバガニと混同されることが多く、“影の王”と呼ばれることもある。
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❄️ 生態 ― 影を生きる深海の者
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アブラガニの暮らす海は、
光が届かないほど深い。
冷たい潮の底で、
彼らは大きな脚を静かに広げている。
タラバガニに似た形を持ちながら、
その動きはより遅く、慎重だ。
荒れの波を避け、
静かな深みで季節を待つ。
“似ている”ことは、生き残りのため。
しかし“同じではない”という意志が、
この海での居場所を守っている。
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⚓ 文化 ― 名を奪われた存在
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市場では、彼らはしばしば「タラバ」と呼ばれる。
紅ではなく、褐の殻を持つ彼らの名は、
知られぬまま売られていく。
だがその肉は甘く、
旨味は深く、
食べた者の舌に静かな記憶を残す。
人は名を求め、
海は名を忘れる。
アブラガニはそのあいだで、
黙って自分の殻を磨きつづける。
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🌕 象徴 ― 影の中の尊厳
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影とは、光があって生まれるもの。
けれど、影そのものにも色がある。
アブラガニの殻には、
タラバにはない深い褐の光が宿る。
それはまるで、
海底の岩に残る太古の記憶のようだ。
似ている者として生きるのではなく、
“影であること”を受け入れて生きる。
その静けさこそ、
海の中で最も強い光なのかもしれない。
次話:イソガニ ― 潮の狭間に立つ者

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