🦗鈴虫17:声のない世界 ― 音が残すもの

スズムシシリーズ

― 響かない音の記憶 ―


🗂目次


🌌音が消えた夜

ある夜、鈴虫の声がしなくなった。
季節が移り、気温が下がり、
空気が乾いていく。

その静けさは、
音が消えたというよりも、
音の居場所が移ったようだった。

どこか遠くの、
まだ秋が残る森で、
きっと誰かが鳴いている。


🍂記憶の空気

耳には何も届かないのに、
身体はまだ音を覚えている。

夜風の温度や、
月の明るさ、
草の匂い。

それらすべてが“鈴虫の音”の一部だった。
音とは、空気と時間を含んだ記憶なのだ。


🌫音の影を聴く

声がなくなったあとの夜には、
奇妙な“残響”がある。

風が枝を揺らすとき、
遠くの水がきらめくとき、
そこに音の影が生まれる。

その影を感じ取る耳が、
人の心の奥に残っている。
それは、聴くという行為の名残。


💫静寂のあとにあるもの

音は消える。
けれど、静けさは残る。

静けさは、
かつて音があった証。
そして、これからまた音が生まれる場所。

声のない世界は、
終わりではなく、
始まりの余白なのかもしれない。


📖 🦗 鈴虫シリーズ一覧へ

コメント

タイトルとURLをコピーしました