― 響かない音の記憶 ―
🗂目次
🌌音が消えた夜
ある夜、鈴虫の声がしなくなった。
季節が移り、気温が下がり、
空気が乾いていく。
その静けさは、
音が消えたというよりも、
音の居場所が移ったようだった。
どこか遠くの、
まだ秋が残る森で、
きっと誰かが鳴いている。
🍂記憶の空気
耳には何も届かないのに、
身体はまだ音を覚えている。
夜風の温度や、
月の明るさ、
草の匂い。
それらすべてが“鈴虫の音”の一部だった。
音とは、空気と時間を含んだ記憶なのだ。
🌫音の影を聴く
声がなくなったあとの夜には、
奇妙な“残響”がある。
風が枝を揺らすとき、
遠くの水がきらめくとき、
そこに音の影が生まれる。
その影を感じ取る耳が、
人の心の奥に残っている。
それは、聴くという行為の名残。
💫静寂のあとにあるもの
音は消える。
けれど、静けさは残る。
静けさは、
かつて音があった証。
そして、これからまた音が生まれる場所。
声のない世界は、
終わりではなく、
始まりの余白なのかもしれない。
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