― 静けさの消えた夜に ―
🗂目次
🏙鳴かない夜
都会の秋は明るすぎる。
夜になっても、どこかが光っている。
その光の中では、
鈴虫の声がかき消されてしまう。
風のかわりに車が走り、
闇のかわりにネオンが照らす。
かつて鳴いていたはずの空き地も、
いまは駐車場か建物の影になっている。
🚗音の中の沈黙
街は音であふれているのに、
静けさがない。
鈴虫の声は、
“音の少ない世界”でしか生きられない。
人の生活音が絶え間なく続くこの場所では、
音の隙間そのものがなくなってしまった。
静けさを失ったとき、
人は耳で感じる季節も失ったのかもしれない。
🌾鈴虫がいた場所
それでも、
都会の片隅に小さな草地が残っている。
夜の公園、川沿いの茂み、
その奥で、まだ鳴く声がある。
車の音の隙間を縫うようにして、
かすかな「リーン」が聴こえる。
まるで、この街の記憶が
まだ消えていないと知らせるように。
🌙聴く心のゆくえ
鈴虫の声が聞こえなくなったのは、
虫が減ったからだけではない。
人が聴かなくなったからだ。
耳を澄ませるという時間を、
私たちはどこかに置き忘れてきた。
もう一度、
夜を静かに聴ける場所を見つけたい。
そこに鈴虫の声があるかどうかは、
きっと自分の心の静けさ次第だ。
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