― 響きのあとに残るもの ―
🗂目次
🍂秋の深まり
十月の森は、
少しずつ色を失い始める。
昼の陽ざしが弱まり、
夜が長くなるころ。
鈴虫の声も、少しずつ数を減らす。
あんなに賑やかだった夜が、
いまは、風の音に満たされている。
秋が深まるというのは、
音が静まることでもある。
🌫音の薄明
はじめは、遠くのほうで一匹だけが鳴いていた。
それも次第に間を置くようになり、
音が消えるまでの時間が伸びていく。
夜の湿度が下がり、
空気が乾くにつれて、
翅の震えは途切れがちになる。
それでも、最後のひと声を
森はしっかりと受け止めている。
🌙静けさの中で
鈴虫の声が途絶えたあとの夜は、
不思議な静けさに包まれる。
何も鳴かず、何も動かず、
ただ、冷たい空気が流れている。
それでもその静寂の中には、
音のかけらが残っている気がする。
耳を澄ませば、
どこかでまだ“リーン”と響くような錯覚。
🕯残響という記憶
鈴虫の命は終わっても、
その音は、人の記憶の中に残る。
「今年も鳴いたね」と言う声の中に、
生きていた証がある。
音は消えても、
聴いた心は鳴りつづけている。
秋の終わりに訪れる静寂は、
次の命への余白なのかもしれない。
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