🦗鈴虫5:命のリズム ― 孵化から秋まで

スズムシシリーズ

― 音へ向かう時間 ―


🗂目次


🌱卵の季節

冬の終わり、土の奥で卵が眠っている。
枯葉と土のあいだから、
春の光をかすかに感じながら。

その殻の中には、
すでに“音”の設計図がある。
どの翅を動かし、どんな声を出すのか──
鈴虫の命は、まだ鳴かぬうちから「声の虫」として始まる。


☀️夏の記憶

初夏、雨上がりの土がやわらかくなるころ、
小さな幼虫が姿を見せる。
透きとおるような身体で、
静かに草の根を登る。

脱皮を繰り返し、少しずつ色を濃くしながら、
夏の空気を吸い込んで大きくなる。

そのあいだ、何も鳴かない。
音のない時間が、
この虫を“鳴くための体”へと育てていく。


🍂秋の声へ

八月の終わり、
最後の脱皮を終えると翅が生まれる。
透明な膜が光を受けて、
かすかに震える。

それは、鳴く前の呼吸のよう。

初めて音を出した瞬間、
世界は少しだけ静かになる。
そして、森に「秋」が始まる。


🌙命の終わりに

十月。
気温が下がり、夜露が深くなる。
鳴き声の間隔が、少しずつ長くなる。

やがて音は途切れ、
翅は静かに折りたたまれる。

その声の残響だけが、
風に混じって残る。

鈴虫は死んでも、
その音は“季節”として生き続ける。


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