― 静けさが声を育てる ―
🗂目次
🌌森の夜
太陽が沈み、山の影が深くなる。
昼の声が静まり、夜の音だけが残る。
その暗闇の奥から、鈴虫の声がひとつ響く。
最初は遠くでかすかに、
やがてあちらこちらから応えるように鳴き始める。
森が、ひとつの楽器になる。
🍃音を運ぶ空気
鈴虫が鳴くのは、湿った夜。
乾いた風では音が遠くまで届かない。
夜露が落ちるころの空気は重く、
音をやわらかく包み込む。
その湿度の中で、
「リーン」という声は、
冷えた空気をすべるようにして広がっていく。
森の温度、風の流れ、草の高さ。
すべてが、音のかたちを決める。
🌾鳴く場所の記憶
鈴虫は、地面から少し高い草の陰を選ぶ。
葉の裏、石の隙間、木の根元。
そこは音が反響しやすく、
外敵にも見つかりにくい。
何代も続けて同じような場所を選ぶのは、
きっとその“音の響き”を覚えているからだ。
鳴く場所そのものが、命の記憶。
🌙静寂という舞台
鈴虫の声が響くためには、
沈黙が必要だ。
静けさがなければ、
あの繊細な音はすぐに消えてしまう。
森が息をひそめ、
夜が耳を澄ませている。
その沈黙の中でだけ、
鈴虫の声は生きる。
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