🦗鈴虫4:夜の森 ― 音が生まれる場所

スズムシシリーズ

― 静けさが声を育てる ―


🗂目次


🌌森の夜

太陽が沈み、山の影が深くなる。
昼の声が静まり、夜の音だけが残る。

その暗闇の奥から、鈴虫の声がひとつ響く。
最初は遠くでかすかに、
やがてあちらこちらから応えるように鳴き始める。

森が、ひとつの楽器になる。


🍃音を運ぶ空気

鈴虫が鳴くのは、湿った夜。
乾いた風では音が遠くまで届かない。

夜露が落ちるころの空気は重く、
音をやわらかく包み込む。

その湿度の中で、
「リーン」という声は、
冷えた空気をすべるようにして広がっていく。

森の温度、風の流れ、草の高さ。
すべてが、音のかたちを決める。


🌾鳴く場所の記憶

鈴虫は、地面から少し高い草の陰を選ぶ。
葉の裏、石の隙間、木の根元。

そこは音が反響しやすく、
外敵にも見つかりにくい。

何代も続けて同じような場所を選ぶのは、
きっとその“音の響き”を覚えているからだ。
鳴く場所そのものが、命の記憶。


🌙静寂という舞台

鈴虫の声が響くためには、
沈黙が必要だ。

静けさがなければ、
あの繊細な音はすぐに消えてしまう。

森が息をひそめ、
夜が耳を澄ませている。

その沈黙の中でだけ、
鈴虫の声は生きる。


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