Modicogryllus siamensis(オカメコオロギ) は、夜の街の片隅で明るく鳴く小さなコオロギです。その声は笑うように軽やかで、静かな秋の終わりに“ひとしずくの温もり”を落とします。ツヅレサセコオロギが夜を縫う糸なら、オカメコオロギはそれをほぐす笑み。現代の都市に生きる新しい秋の虫です。
📖 目次
🐠 基本情報
🌊 生態・習性
🎵 鳴き声
🏡 人との関わり
🧠 豆知識
🪶 詩的一行
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🐠 基本情報|オカメコオロギとは
分類: バッタ目 コオロギ科
学名: Modicogryllus siamensis
分布: 日本(本州以南)・東南アジア原産
体長: 約13〜17mm
鳴き声: 「ピチピチ」「チリチリ」など明るく細やかな高音
オカメコオロギは、体が丸みを帯びた小型のコオロギで、名前の“オカメ”はふっくらとした外見と愛嬌ある顔立ちからついたとされます。翅の模様が柔らかく、光を受けると琥珀色に透ける。野山よりも街に近い環境を好み、舗装路の隙間や民家の庭、花壇などにも現れます。
🌊 生態・習性|都市を棲みかにするコオロギ
オカメコオロギは外来種として東南アジアから日本へ渡来しました。暖かく湿った環境を好み、近年では本州中部以南に広く定着しています。人の暮らす場所の近くをすみかとし、夜には電灯の下やブロック塀の隙間から鳴き声が聞こえることも。
日中は石の下やプランターの影に潜み、夜になると出てきて活動を始めます。雑食性で、落ち葉や小さな虫、パンくずのような有機物を食べます。外来種ながら環境への影響は小さく、他のコオロギとのすみ分けを保ちながら生きている柔軟な虫です。
季節は秋。ほかのコオロギたちが静かになっていく中で、オカメコオロギは最後まで鳴き続けます。その明るい声は、秋の終わりの小さな灯のようです。
🎵 鳴き声|笑うような高音
オカメコオロギの鳴き声は「ピチピチ」「チリチリ」と形容されます。短く、明るく、リズミカル。まるで小さな笑い声が連なっているような音です。風のない夜に耳を澄ませば、舗装路の隅から、草の陰から、その笑い声がこぼれます。
音の高さは約6〜7kHzと高く、夜の静けさの中でも鋭く抜ける。鳴き方には個体差があり、関西以南の個体はテンポが早く、関東以北ではややゆっくり。温度によってもテンポが変わり、冷えると間が広くなります。その微妙な違いが、“一匹一匹の笑い方”に聞こえるのです。
オカメコオロギの声はツヅレサセの余韻をほどき、秋の静けさに“呼吸”を戻すように響きます。
🏡 人との関わり|変わる都市、残る虫
オカメコオロギは、かつて東南アジアから貨物や園芸植物とともに持ち込まれたと考えられています。最初に記録されたのは20世紀後半。人の流れとともに分布を広げ、いまや街の夜に欠かせない鳴く虫となりました。
エンマコオロギやツヅレサセコオロギが姿を消した都市の公園で、この小さな声が鳴っていることがあります。それはまるで、“自然が形を変えて生き延びている”証のようです。外来種という言葉の冷たさとは裏腹に、その声は人の生活に寄り添い、都市の夜に柔らかな色を足しています。
夜のアスファルトの上に、ふと響く「ピチピチ」という音。それは、変わっていく日本の秋を、そっと見守る新しい鳴き手の声なのです。
🧠 豆知識|オカメコオロギの小さな秘密
- “オカメ”の由来は、顔が丸くかわいらしい見た目から。
- 外来種だが、日本の冬にも耐えられる強い適応力を持つ。
- 気温25℃前後で最もよく鳴く。気温が下がると声が柔らかくなる。
- 電灯や街路樹の根元など、人工的な環境を好む。
- メスは地中に卵を産み、翌春に孵化する年一化型。
🪶 詩的一行
笑い声が 夜をほどいていく
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