🦗 蟋蟀3:エンマコオロギ ― 野原を支配する秋の歌い手

コオロギシリーズ

Teleogryllus emma(エンマコオロギ) は、日本各地に生息する代表的な秋の鳴く虫です。黒くつやのある体と低く響く鳴き声で知られ、日本の秋の風物詩として古くから親しまれています。

📖 目次
🐠 基本情報
🌊 生態・習性
🎵 鳴き声
🏡 人との関わり
🧠 豆知識
🪶 詩的一行
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🐠 基本情報|エンマコオロギとは

分類: バッタ目 コオロギ科
学名: Teleogryllus emma
分布: 北海道南部〜沖縄、東アジア一帯
体長: 約20〜25mm
鳴き声: 「チンチロリン」「リーリー」など低音の鳴き声

黒く光る体と力強い鳴き声が特徴。名前の由来は“閻魔”を連想させる黒色と堂々たる鳴き方にある。日本人が最も親しむコオロギであり、「秋の声」の代表的存在です。


🌊 生態・習性|野原で暮らす秋の支配者

エンマコオロギは夏の終わりから晩秋にかけて活動。昼は石の下や落ち葉の陰に潜み、夜に地表に出て鳴く夜行性です。野原・畦道・公園・都市の植え込みなど、人の近くでもよく見られます。

オスは翅をこすり合わせて「チンチロリン」と鳴き、メスを誘うと同時に縄張りを主張します。低く深いテンポで鳴く声は静寂の夜に広がり、秋の空気そのものを震わせるようです。

メスは褐色で腹部後端に長い産卵管を持ち、晩秋に柔らかな土へ卵を産みます。冬を越し、春に孵化した幼虫は数回脱皮して夏に成虫となり、また秋に鳴きます。この一巡りが“季節の呼吸”です。


🎵 鳴き声|「チンチロリン」に宿る秋のリズム

エンマコオロギの鳴き声は日本語で「チンチロリン」「リーリー」と表される低音。実際には鈴よりも鐘に近い、厚みのある響きです。

風のない夜、ひとりの鳴き手が声を放つと、野原のあちこちから応えるように声が連鎖します。リズムや間の取り方に個体差があり、それが音楽的なゆらぎを生む。録音すると、波形は太くうねり、静寂の中に深い呼吸のようなリズムを描きます。


🏡 人との関わり|文化に息づく「秋の声」

古くから日本の文学・俳句・和歌で「秋の音」として詠まれてきました。高浜虚子の句「閻魔蟋蟀 鳴くや秋風 草の庵」にも登場し、秋の情緒そのものとして人々に愛されてきました。

江戸や明治の頃には虫かごで飼い、縁側で音を楽しむ風習も。現代の都市でも、夜の公園や街路樹の根元でその声を聞くことがあります。ガラス越しにかすかに届く声は、失われた自然の記憶を呼び戻す小さな詩です。


🧠 豆知識|エンマコオロギの小さな秘密

  • 江戸時代の文献に「閻魔蟋蟀」として記録がある。
  • 気温20℃前後で最も活発に鳴く。寒くなるとテンポが遅くなる。
  • オスの翅の発音器は地域で微妙に形が異なり、音色にも個性がある。
  • 沖縄では冬でも鳴き声を聞けることがある。
  • 別名「地鳴虫」とも呼ばれ、地の声を聴く虫として親しまれてきた。

🪶 詩的一行

黒き翅ひらき 夜をひとつの器にする


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