🪸 基本情報
アジは日本の海に広く生息する代表的な回遊魚であり、古くから「庶民の魚」として食卓を支えてきました。
しかしその存在は、単なる食材にとどまらず、日本の沿岸漁業を支える基幹魚種としても重要です。
漁獲・流通・地域経済・環境の4つの側面から見ても、アジは“海と暮らしの接点”にある魚といえます。
本記事では、最新統計や地域事例を交えながら、鯵がどのように日本の漁業を支えているのかを詳しく解説します。
⚓️ 漁獲の実態と主な漁法
農林水産省の統計(2024年版)によると、アジの年間漁獲量は約24万トン前後で推移しています。
ピーク時の1970年代に比べると減少傾向ですが、それでも依然として国内で10位以内の主要魚種です。
主な漁場は、太平洋側では房総半島〜九州沿岸、内海では瀬戸内海、日本海側では山陰・北陸沿岸。
アジは暖流域を好むため、黒潮や対馬暖流の影響を受けて季節的に分布を変えながら回遊します。
漁法は地域によって異なり、主に以下の3つが中心です。
- 定置網漁:海岸近くに網を固定して群れを待ち受ける伝統的な漁法。アジの新鮮な状態を保てる。
- 巻き網漁:大型船団で広範囲の群れを一度に捕獲。水揚げ量が多く、加工・冷凍向けに適する。
- 一本釣り漁:品質重視の漁。ブランドアジ(関あじなど)で多く採用。
これらの漁法が地域ごとに分担され、アジという一種の魚を通じて全国的な漁業ネットワークが形成されています。
🌊 沿岸漁業を支える“地域の柱”
アジは高級魚ではないものの、安定した漁獲量と消費量を持つため、地方の小規模漁業を下支えしています。
たとえば、
- 長崎県松浦市では、全国有数のアジ漁獲量を誇り、ブランド名「旬(とき)あじ」として出荷。
- 大分県佐賀関では、潮流の速い豊予海峡で一本釣りされた「関あじ」が有名。
- 静岡県伊東市では、定置網で獲れたアジを地元飲食店と連携して提供。観光・飲食が一体化している。
こうした地域では、漁業が単なる生産活動にとどまらず、地元経済と文化の中心的役割を果たしています。
アジが獲れなければ市場も観光も成立しない――まさに「地域を回す歯車」といえる存在です。
🧩 資源管理と漁業政策の現在
アジ資源の安定化に向け、政府は**TAC制度(漁獲可能量管理)**を導入しています。
これは、科学的データに基づいて年間の漁獲上限を設定する仕組みで、乱獲を防ぐ目的があります。
さらに、各地の漁協や研究機関では次のような取り組みが進められています。
- 放流事業:稚魚を放流し、資源量を回復。
- モニタリング調査:海水温・餌生物の変動を追跡し、漁場の変化を分析。
- 混獲抑制の改良網具:小型魚を逃す工夫を施した網の導入。
- 共同管理型漁業:地域単位で漁期や漁獲制限を調整し、漁業者が主体的に資源を守る。
特に注目されるのが、海水温上昇による北上傾向。
北海道南部や東北沿岸でマアジの漁獲が増加しており、温暖化による“魚の引っ越し”が進行中です。
これは一方で、南日本の漁場縮小や漁期短縮をもたらしており、地域ごとの適応が急務となっています。
🧠 魚と人の共生 ― 持続可能な未来へ
アジの漁獲が続けられるのは、長年にわたり漁師たちが培ってきた**「海と生きる知恵」**があるからです。
夜明け前の出漁、潮の読み方、魚の動きを肌で感じ取る技術――それらはデータに代えがたい経験値です。
近年では、こうした伝統漁業を次世代へ継承するため、
漁師体験や海の環境教育を行う自治体も増えています。
「子どもたちに魚の大切さを伝えることが、海を守る第一歩」という考え方が広まりつつあるのです。
アジは、私たちの暮らしにとって“あたりまえ”の魚かもしれません。
しかしその一匹の背後には、海の変化、地域の努力、そして未来への挑戦が隠れています。
アジを知ることは、日本の漁業そのものを理解することでもあるのです。
🍣 まとめ
アジは単なる食材ではなく、日本の海と地域を結ぶ生命線です。
安定した需要と供給を保ちながら、地域経済を支え、環境と共生する仕組みを形づくっています。
その姿はまさに、海の恵みと人の知恵が調和した「沿岸漁業の象徴」。
次回は「鯵17:鯵の市場と流通 ― 朝獲れが全国に届くまで」で、
港から食卓までの流れを、漁師・市場・消費者の視点から見ていきます。
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