― 海は、まだ光っている ―
海はすべてを包み込みながら、静かに変わっていく。
潮の流れ、温度、光の届く深さ。
鮭はその変化の中を泳ぎながら、新しい道を探している。
🌊 変わりゆく海
かつて冷たく澄んでいた北の海は、少しずつ姿を変えている。 オホーツクからベーリングへと続く潮流がわずかにずれ、 プランクトンの群れが北へ移動し、海の色さえ変わりつつある。 海水温が上がり、鮭の旅は長く、厳しいものになっている。
それでも、海は沈黙のまま受け入れる。 命が生まれ、去り、また戻ってくる。 その循環の中に、人の営みも含まれている。 未来を問われているのは、鮭だけではない。 私たちもまた、この流れの中を泳いでいるのだ。
🐟 鮭の新しい旅路
研究者たちは言う。 鮭の回遊ルートは年々北へずれている。 しかし、それは消えていく旅ではない。 鮭は新しい海を見つけ、そこでもう一度命をつないでいる。
変化に適応するということ。 それはあきらめではなく、生きる力そのものだ。 鮭の銀の体は未来を恐れてはいない。 ただ水を信じて進む。 その姿に、人はまだ希望を見出している。
🌏 人と海のあいだで
人の手が海に加えた変化は小さくない。 護岸、乱獲、温排水、そして気候。 けれど同時に、人は再び海を学びはじめている。 放流や保全の試み、川の再生、地域ごとの小さな努力。 その一つひとつが、新しい共存の形を描いている。
北海道では、かつて失われた支流に再び鮭を呼び戻そうという取り組みがある。 水を守ることは、魚を守ること。 魚を守ることは、私たちの記憶を守ることでもある。 未来の海は、人と魚が同じ方向を見つめる場所になるだろう。
☀️ 希望の光
夕暮れの海に、光が落ちる。 波の上で、稚魚たちの銀色の背がきらめく。 その小さな光のひとつひとつが、未来の証。 どんな海になっても、命はそこに息づく。 変わることを恐れず、ただ流れを信じて。
鮭の旅は終わらない。 それは時間を越えて、海と人を結び続ける。 未来とは、まだ見ぬ光の名前。 そして今、その光は私たちの手の中にもある。 水の匂いがそれを教えてくれる。 ――生きるとは、流れを信じること。
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